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西遊雑記

大村(○○)〈ほうこより半里〉此所は豪家も見え、町も商人多し、船人もあしからず、能所と見ゆ、土人の物語には、鎌倉時代より、旧領の地にして、西の方は海上とは雲ながらも、凡三十里、島数多く運上金火しく、東の方地方は七里計、十二三万石の御食地と雲り、其故にや武家〈并〉町もよく、領分悪からず、城は通りよりは見えず、土人に尋しかど、委敷は語らず、察る所、館造のかき上の城なるか、旅人は家中へ入る事ならず、城辺は勿論の事也、此地に義大夫といふ豪家ありて、近江より大村の長者と称して、海浜島々の漁家仕送せし家也、今は昔と違て衰へし事也、此辺の山には水気有て、思ひよらざる山の頂迄も、田として稲作あり、谷々も水沢山にて、流れ多し、地の利は案外の者にて、愚眼の目利には及がたし、経済に志ある人、其地々々の地利お見る事肝要なるべし、