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人国記
肥前国 肥前国の風俗、山陰お合たるより、猶勇国にて、勇に趣く時は、義お知てひるむ色なし、誠に其国之湿土に生得るとは雲ながら、百人にして九十九人如斯也、若一人不勇の人あるは、珍敷事ども也、武士之風俗猶以如此と可知也、雖然無風に勇お行ふが故に、温和之志お不知なり、されども上と而は下お哀み、下と而は上みお敬ひ、主君之為に命お捨ん事お常に願ひて、志す事士より国民に至まで皆如斯なれば、百姓町人と雲へども、義理お強ふ、而身に難遁罪科有て、死に究ると知る時は、男女に不限致死事、露程もおしまざる也、音声は卑劣なり、風儀は信州に而智之すくなき国風なれども、人之一和することは信州にこへたり、