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西遊雑記

阿蘇郡にて、今二万八千石の地といへども、東西凡十里余、広大なりといへども、山ばかりにて原野も数多にて、笹倉などいふ原は、昔の武蔵のヽ原と称せしも、かヽる原ならんと思ふばかりの、広々とせしところ也と、土人物語には、開田せば阿蘇郡にて十余万石も出来べき原地有所ながら、人のなき故に、古田も年々に荒はてるといひき、〈◯中略〉此辺は幾り行ても、花咲草木なく、土色は黒く、水の流れも濁水にて清からず、谷々に於て菖蒲の花お見しばかりにて、日本のうちにも、かヽる下々国もあるものかなと驚し所なり、〈◯下略〉