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西遊雑記

日向の国は〈◯中略〉夏月に至りて、下民残りなく裸身にて、男子はいふに及ず、婦人も紺の木綿下帯計にて居るなり、一村の里正は、女房など斯は有まじきと見るに、垢つかぬ二布おせしのみにて、娘小児に至るまでも、裸にて近郷一里ばかりもあるところへ、用事ありて行にも裸にて、たばこ入鼻紙入などは、二布の紐に差はさみ行事なり、はじめて行あひし時は、目なれざる体故に、おそろしくおもひし程なりき、凡て婦人恥敷といふ事更に知らぬ体なり、家居は、一家として上方中国筋に建し様なる奇麗なるは、在々に於て更になし、雪隠などは、家陰に建て、壁もなき故取はなしの厠也、悉く記すに及ず、是等の事にて国風お察し知るべし、されども初めにいふごとく、人は武士にて、城下近くはさほどもなく、延岡などの市中は、余程よき町にて、諸品大概調ふ所にて、しかも夕南北よりさし込、要害風景もよき所なり、