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東遊雑記
十三
扠松前に上りしに、案外なる事にて、其屋宅のきれいなる事、都めきし所にて、左右の町屋表おひらき、床に花おいけ、金銀の屏風お立、毛氈お敷ならべ、御巡見使御馳走の体と見へ、貴賤の男女千体仏の如く、扠拝見に出し風俗容体衣服に至る迄も、上方筋の人物に少しもおとらぬ、秋田津軽の辺鄙の悪所おもすぎ、僅かなる海里お渡りて、かヽる上々国の風俗あらんとは、風聞にても聞ざりしゆへに、壱人もあきれざるもの更になし、