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倭訓栞
前編五衣
えぞ 毛人島おいへり、〈◯中略〉文字なし、縄お結び木に刻して記とす、又医業なし、死すれば山に埋む、其人の秘蔵せし物は一所に埋み、家は焼すて、残る家内の者は別に住也、其妻三年の内かむりものし慎む、又再嫁せず、凡て易産にて、直に海に入て血のさわぐ事なし、生児も海にあらひて虫けづく事あらずとぞ、〈◯中略〉家は塩がまの如く、入口まがりて、外より内は見えず、晴天に猟船お出す時は、浜辺へ小屋お造り、妻子ともに居とぞ、男少く女多く、一夫に七八婦あるに至る、長寿の地なり、衣服は、木皮、熊皮、狐皮等お用う、家内にて色情おいふはいとはず、他人来居ときに色欲の事などいへば、甚怒りて、七つの償物お出す、其物は、鎗、太刀、矢筒、煙草、米、餅、衣服也、人家に入ば、三度いたヾきて体おなす、やいくいしかれしよろれといふは、息災なるといふ挨拶也、父子夫婦兄弟の間、次第分差ありとぞ、