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古事記伝
十七
海神の宮は、海の底にある国なり、後世のなまさかしき説どもは、古伝の趣にかなはず、〈仏書に竜宮と雲る物あり、其説るさま、あやしきまで此段にいとよく似たる処あり、(中略)さて又近き代のなまさかしき人の心には、水中に宮室などのあるべき理なしと思ひとるから、かの竜宮などの説おも信ず、此段の事おも、実は海底には非ずとして或は薩摩国近き一の島なりといひ、或は琉球国なりといひ、或は対馬なりなども雲て、其証などおもとりどりに雲めれど、凡てさる類は、皆古伝に背ける例の儒者意の私事なり、〉