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桃源遺事

一西山公〈◯徳川光国〉御風雅なる御事も、今の世には希なるべきか、その片端お申さば、或年、水戸城より南に当りて、小幡〈茨城郡〉といふ所の往還の傍に、類ひなき桜有、一とせ花の比、春雨の晴間もなくふりける日、この桜の事お覚し召出され、雨中の花一しほにこそとて、御笠お召れ、遥遥と彼木の下へ至り給ひ、宴お披き詩お吟じ歌お詠じ、終日御詠候、西山より此所迄は、行程五十七里、〈是は板東道(○○○)の積也◯下略〉