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皇都午睡
三編上
東海道、木曾街道は、馬駕籠とも自由なり、一時木曾の宮の腰にて雨催ひして、風烈しければ心急ぎ、茶店にて馬お拵らへさせしに、馬牝馬にて、馬士も十七八の女なり、蓑笠にて出づれば、男女やらわかるべからず、茶屋の店より馬に乗る所、世話する者も女なり、薮原の駅お過て、鳥井峠の絶頂まで三里余の道お、日の七つ時より追ふて行、還りは又薮原にて荷物お附て帰り、夜の四つにもなるべし、才三百文計の銭お儲んとて、若き女の雨風おこと共せず行事也、