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古事記伝
二十五
黒樔橋は、久漏岐能須婆斯と訓べし、樔字は巣と同じければ、簀の意に借れるなり、又以簿取魚曰樔とも字書に雲れば、直に簀の義に書るにもあるべし、さて〈簀とは常には竹葦などお編たるお雲へども、此は、〉細き木お簀に編並べてかけたるお、簀橋とは雲なるべし、明宮段に、船中之箐椅とあるも是なるべし、〈箐は笭箐とて、小籠のことにて由なければ、簀字お誤れるなり、甕栗宮段に、魚簀とある簀字おも、一本に箐に誤れる例あり、〉黒とは黒木なるお雲なるべし、故木字は無けれど然訓つ、〈此は必黒木お雲なるべきに、たゞ久漏とのみにてはくろきすばし、くろすばし、くろすのはしなど、いかに訓ても、隠ならざればなり、又黒木おおきては、他に黒と雲べき由おもほえず、谷川氏雲、黒樔橋とは、黒木のまるたお打渡して、其中に柴などお挟みて造るお雲、今も山川に然せる橋多しといへり、〉さて此は仮宮に往来ふ料に、仮に渡せる橋なり、