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視聴草
五集六
藤橋之記 飛騨国高原(○○○○○)なる舟津の流れは、北海より十六里の水上にして、渓ひろければ橋おわたさん方便もなく、巌聳へぬればふねおよすべき岸根もあらず、かくこえがたき処なるに、そも藤橋お掛そめし昔お思ひわたるに、彼紅お見て橋お造りし類ひにして、張絹にならふて藤かづらお織立、目なれぬはしおいとなみ、千里往来の便とはなしぬ、実にはじめてわたる人は、その動お見てはその危きお思ひ、行て目まひ股おのヽきて這ふて渡るも多しとぞ、