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慶長見聞集

江戸の川橋にいわれ有事 かたへなる人雲、今江戸の橋広大にして長く、みな板橋に欄竿、所々に銅のぎぼうしあつて、見よしといへども、橋の名お聞ばとなへいやしく、いなかびれておかしかりき、古より聞伝へし名所橋多し、唐橋は山城に在、みはし、内橋、雲のかけ橋は禁中の事とかや、古歌に、わかめかる春にもなれば鶯の木伝ひわたる天の橋立と詠ぜり、宇治橋、瀬田長橋、広橋、細橋などいふこそ聞もとなへもやさしき名也と雲、老人聞て、いや江戸の橋の名笑ひ給ひそ、昔の橋の名も一つ橋丸木橋、竹橋、中橋(○○)、堀江橋、皆是名所にて、歌によみたり、此橋の名、今江戸の都に出来たれば、詩人歌人などか此橋に詠吟なかるべき、