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菅笠日記

むかひはすなはち初瀬の里なれば、人やどす家に立入て、物くひなどしてやすむ、〈◯中略〉さて御堂にまいらんとていでたつ、まづ門お入てくれはしおのぼらんとする所に、たがことかはしらねど、だうみやうの塔とて、右の方にあり、〈◯中略〉かくて御堂にまいりつきたるに、〈◯中略〉巳の時とて、貝ふき鐘つくなり、むかし清少納言がまうでし時も、俄にこの貝お吹いでつるに、おどろきたるよしかきおける、思ひ出られて、そのかみの面影も見るやうなり、鐘はやがてみだうのかたはら、今のぼりこしくれはしの上なる楼になんかヽれりける、 名も高くはつせの寺のかねてよりきヽこし音お今ぞ聞ける