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太平記
三十九
諸大名讒道朝事附道誉大原野花会事 貞治五年三月四日、道誉〈◯中略〉京中の道々の物の土手ども、独も不残皆引具して、大原野の花の本に宴お設け席お厳て、世に無類遊おぞしたりける、已に其日に成しかば、軽裘肥馬の家お伴ひ、大原や小塩の山にぞ趣きける、〈◯中略〉路羊腸お摎て、橋雁歯の危おなせり、此に高欄お金襴にて裹て、ぎぼうしに金薄お押し、橋板に太唐氈、呉郡の綾、蜀江の錦色々に布展べたれば、落花上に積て、朝陽不到渓陰処、留得横橋一板雲相似たり、 ◯按ずるに雁歯とは雁行の義にして、即ち橋板の級なり、