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太平記
二十七
田楽事附長講見物事 同年〈◯貞和五年〉六月十一日、抖擻の沙門、四条の橋お渡さんとて、新座、本座の田楽お合せ、老若に分て、能くらべおぞせさせける、四条川原に桟敷お打つ、希代の見物なるべしとて、貴賤の男女挙る事不斜、公家には摂禄大臣家、門跡は当座主梶井二品法親王、武家は大樹是お被興しかば、其以下の人々は不及申、卿相雲客諸家の侍、神社寺堂の神官、僧侶に至る迄、我不劣桟敷お打、五六八九寸の安の郡などお鐫貫て、囲八十三間に三重四重に組上物も忯しく要へたり、