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一話一言

江州非人 ある人江州へ行き侍りしに、一の非人村があり、其所に橋の渡りぞめありしお立止りて見侍りしに、非人頭とおぼしき者、円座に座してありけり、村のものども橋の渡りぞめの祝儀お持来る、其中より痩て色悪き男一人、茄子三つ持来て頭の前に進む、頭たるもの是お見て、女は頃日相煩ひ居ると聞しに、何とて此茄子お持来るやと問ければ、左様に候、永々の病気難義仕候処に、此度橋の渡りぞめに付、頭殿へ祝儀おいたすべきよし小頭より申渡し候ゆえ、夜前他処の畠へ往きぬすみ申候と雲ふ、頭の雲、乞食は盗おせまじき為也、盗おなせば乞食はせず、女は村の住居はなるまじきと雲て、小頭お召てかれが快気次第村お払ふべし、病気の内は番お致すべしといひわたしけるとかや、〈下略〉石田勘平都鄙問答に見へたり、