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甲子夜話
四十四
去冬〈文政六年〉両国橋改造ありて、橋開のときは長寿の人渡り初たり、聞くにこの橋に限て例この如しと、去れば日本橋も古橋なれど、両国橋の始て川お渡したるとき、かく為られしより其例お引くなるか、 十二月廿日、〈前日なり〉改造見分の人々、 町奉行 榊原主計頭 御勘定奉行 曾我豊後守 御目付 大草主膳 新見伊賀守 御勘定吟味役 服部伊織 御徒士目付一人 御小人目付一人、 町与力二人 同心四人 廿一日〈当日なり〉出役の人々 御普請掛り 榊原主計頭 大草主膳 同掛り 町与力二人 同心四人 此人々橋お渡り、引取りの後、老人東西の隣町町役中同道して、東より西へ渡り、復東へ還り、畢て往来の人お通す、 長寿の人 〈麻上下著〉 長右衛門〈未〉九十一 妻 〈総模様かいどり著〉 須喜〈同〉八十 右名主岡崎十左衛門支配本八町堀一丁目家主万助店のもの 是より其孫ひこは平服にて、長右衛門の後とにつきて渡りしと雲、 〈長右衛門子〉久三郎〈未〉六十 〈妻〉美乃〈同〉四十五 〈長右衛門孫〉卯兵衛〈同〉三十一 〈妻〉佐和〈同〉二十九 〈長右衛門ひこ〉巳之助〈同〉三 以上三人は深川仲町住宅 この三歳の小児は、母の負ひて渡りしと雲、