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都のにぎはひ

平けく安らけき大御代の御恵は、いゆき到らぬ隈しなければ、絶にし物どもヽ継て興され、廃れにし事どもおも古にかへさるヽ中、今の大御世おうれしみ辱なみ、絶て久しく成ぬる四条大路の橋お樹渡さまく、祇園社の氏子の人々の思よりて、其よし公に請ぬぎまおししかば、ねぎしまに〳〵許し給ひ命せ賜ひて、かく成竟つるは、いともめでたく貴き言葉になも有ける、かくてぞ都のすがたも取よろひて、足ひにける、されば大神も阿那めでたあなおむかしと、めで賜ひ悦びたまひ、氏子の人等も常にまうづる道の妨なく何の煩なく、今より後は加茂の水絶る事なく、石の柱のすたることなく、天地のむた遠長く、弥次々に造継もてゆかむ末の世人も、今の大御世の徳化お仰がざらめや、いそしみ成しつる人の功績おたヽへざらめや、 安政四年四月 美濃守六人部宿禰是香