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源平盛衰記
三十九
時頼横笛事 横笛は泣々都へ帰けるが、つく〴〵物お案じつヽ、如何なる滝口〈◯斎藤時頼入道〉は悲き中お思切、かく心づよく世お背ぞ、如何なる我なれば蚫の貝の風情ぞ、難面くながらへて由なき物お思ふべきぞと思ければ、桂川の水上、大井川の早瀬、御幸の橋の本に行潜たりける、朽葉色の衣おば柳の朶にぬぎ懸、思ふ事共書付て、同じ枝に結置、歳十七と申に、河のみくづと成にけり、法輪近き所にて入道此事お聞、河端に趣、水練お語て淵に入、女の死骸お潜上、火葬して骨おば拾ひ頸に懸、山々寺寺修行して此彼にぞ納ける、