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源氏物語
五十一浮舟
山のかたはかすみへだてヽ、さむきすさきにたてるかさヽぎのすがたも、所がらはいとおかしくみゆるに、宇治橋のはる〴〵とみわたさるヽに、柴つみ舟の所々に行ちがひたるなど、ほかにてはめなれぬこと共のみとりあつめたる所なれば、み給たびごとに猶そのかみのことのたヾ今の心ちして、いとかヽらぬひとおみかはしたらんだに、めづらしきなかの哀おほくそひぬべき程なり、まいて恋しき人によそへられたるもこよなからず、やう〳〵物の心しり、都なれ行有さまのおかしきも、こよなくみまさりしたる心ちし給ふに、女はかきあつめたるこヽろのうちにもよほさるヽ涙、ともすれば出たつお、なぐさめかね給つヽ、 宇治ばしのながきちぎりはくちせじおあやぶむかたに心さはぐな、いまみ給ひてんとの給、たえまのみ世にはあやうき宇治橋お朽せぬものとなおたのめとや、さき〴〵よりもいとみすてがたく、しばしもたちとまらまほしくおぼさるれど、人の物いひのやすからぬにいまさらなり、