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奥義抄
中の上
いはヾしのよるのちぎりもたえぬべしあくるわびしきかつらぎのかみ むかし大和国に役優婆塞といひけるもの、ゆきヽよかりなんといひて、かつらぎ山よしの山のあひだに橋おわたさんと思ひて、日本国の神々に祈こふに、かつらぎにいます一言主と雲神、一夜のあひだに、かの山この山のみねにいしのはしおわたしはじめて、ひるはかたちの見にくしきにはヾかりてわたさぬお、役おそかりてなんどいひて、ひるもわたすべきよしおせむるに、神はらだちて託宣して帝に奏したまはく、役優婆塞と雲もの、王位おかたぶけむとす、つみし給ふべしと、みかどこのつげによりて、役行者お伊豆国にながしつかはしつ、神なおかれが世にあらんことおおそれて、命おたヽるべきよしおかさねて奏するによりて、人おつかはしてころすべきよしおほせらるヽに、使いたりてつるぎおぬきてころさむとするに、つるぎに表文あり、見れば神の讒言によりて、あやまたぬ行者おつみせらるヽことあたはぬよしあり、おどろきてこのよしお奏す、みかどおそれ給ひて、めしかへされぬ、そのヽち役行者いかりおなして、護法おもちて此神おしばりて、唐へわたしにけり、これ金峯山の縁起に見えたり、此こヽろおよめる也、