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宇治拾遺物語

いまはむかし、伯〈◯康資王〉のはヽ仏くやうしけり、永縁僧正おしやうじて、さま〴〵の物どとおたてまつる中に、むらさきのうすやうにつヽみたる物あり、あけてみれば、 くちにけるながらのはしのはしばしら法のためにもわたしつるかな、ながらのはしのきれなりけり、又の日またつとめて、若狭あざりらくえんといふ人、歌よみなるがきたり、あはれこのことおきヽたるよと僧正おぼすに、ふところよりみやぶおひきいでヽたてまつる、このはしのきれ給はらんと申、僧正かばかりの希有のものは、いかでかとてなにしにかとらせ給はんくちおしとてかへりにけり、すき〴〵しくあはれなることヾも也、