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扶桑残葉集

長柄橋杭残木記 ながらの橋杭の残れるおほりえしと聞て、いさヽかこれおもとめて、かの所のさまお絵にかきて、橋ばしらに其木けづりなして、調しける硯のふたお、やごとなき御許に奉るとて、 法橋清順 かくてこそ世にもしられめ橋柱むかしながらにくちのこるとは 御かへし 津の国ながらのはしの跡は、今は田にすきかへしなどして、ふりぬる名のみ残れるよしなり、さればそのちかきわたりにすみて、ことのはの道うとからぬ人のすさびに、まさしき橋杭おほり出たるときくは、まことに心ざし深きゆえなるべし、その木おのぞみて、すヾりの箱のふたに、はし杭のこれる長柄のむかしお写絵にかきて、かの木おそのまヽくひになせるが、あさからぬなさけのほどもみゆる、おおくりける人の一片の玉藻おさへそへてありければ、感情にたへずして、まさごの鳥のつたなき跡おつけぬるものならし、 亜三台光栄 橋ばしら思ひがけきや手にとりてむかしながらの跡お見んとは