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扶桑残葉集
十七
八橋のことば 賀茂真淵 言のかたりぶみに、三河なる八橋のことおいへらく、水せく川の蜘手なれば、橋お八つわたせりと、そも〳〵里回の川つらおせくは何ぞ、とほし広くよつに水まかせんとなり、くもでとは何ぞ、川の左によつ、右に四つの溝して、水まかせるものは、蜘が手のひだりみぎりもて、八つあるがさまぞとや、八橋とは何ぞ、川のひだりみぎりに、川そひ路のありて、さとの子のかよへらんには、かのやつの溝に、八つのはしおわたせりとなり、凡田居には、よついつヽらのはしおあふさきるさにわたせる多かれどなヽはしきやけり、かヽるわらべのもたるふみおし見れば、水ゆく川とあり、此古きには水堰川とし書つればいへるか、ことことわりあらはに、まことにさなりけるとおもほゆ、