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倭訓栞
前編八久
くもで 蜘手と書り、伊勢物語に三河の国八橋の事に、水ゆく河のくもでなればといへるは、水の蜘手のやうに流れ行なり、されば真名本には水堰河とあれば、みづせくかはとよむべし、いせぎ川なるおもて蜘手にわかれたるなるべし後撰集に、 打渡し長き心は八橋の蜘手におもふことは絶せじ、橋にいふは籰(わく)の如き物の上に橋かくるおいふ、其組ちがへたる形の蜘の手に似たるなり、俊頼家集に、 並立る松のしづえおくもでにて霞渡れる天のはし立、一説に八橋の蜘手とつヾくるは、蜘の手は数八あるによりてなりといへり、