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海道記
八日〈◯貞応二年四月、中略、〉三河国にいたりぬ、雉鯉鮒が馬場お過て、数里の野原に、一両のはしお名づけて八橋といふ、砂に睡る鴛鴦は夏お辞去り、水にたてる杜若は時おむかへて開たり、花はむかしの色かはらず咲ぬらむ、橋もおなじ橋なれども、幾度つくりかへつらん、相如が世おうらみしは、肥馬に乗て昇仙にかへり、幽子身お捨る窮鳥に類て当橋お渡る、八橋よ、八橋よ、くもでに物おもふ人は昔も過ぎや、橋柱よ、はしばしらよ、おのれも朽ぬるが、むなしく朽ぬるものは今もまたすぐ、