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東関紀行
橋本と雲所に行つきぬれば、きヽわたりしかひありて、けしきいと心すごし、南には潮海あり、漁舟波にうかぶ、北には湖水有、人家岸につらなれり、其間に洲崎遠くさし出て、松きびしく生つヾき、嵐しきりにむせぶ、松のひヾき波のおと、いづれときヽわきがたし、行人心おいたましめとまるたぐひ、夢おさまさずといふ事なし、みづうみにわたせる橋お浜名となづく、ふるき名所也、朝たつ雲の名残、いづくよりも心ぼそし、 行とまる旅ねはいつもかはらねどわきて浜名の橋ぞ過うき