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江戸鹿子

橋 両国大橋 是関東第一の大橋也、〈◯中略〉真中に番所お居て夜陰の非常お禁ずるなり、此橋の上にて四方眺望すればえならぬ風景、記にいとまあらず、ちかく見わたせば、廻向院念仏のこえいつもたえせず、それより見やれば、北のかたに駒形堂、浅草観音堂、又は牛の御前、隅田川まのあたりに見え、遠くは房州、筑波山、ほのかにのぞみ、かぎりなき絶景也、或は諸国の商船多く入船有、出る船あり、三月の比よりして、秋のすえまでは、遊船火敷此ほとりにあつまり、夏月の炎天にはひたすら川面船になりて、流星玉火お帆にあげ、笛太鼓お楫になして、うたひどよめき、一葦の行所おほしひまヽにして、廻向院、駒形堂に上るも有、万頃の慌然たるお凌て、亀井戸、木母寺などに行も有、誠にかくれなき江城の歌吹海也、