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都の手ぶり
両国の橋大江戸より本所へわたしたる橋お、両国の橋とぞよぶ、いにしへこの川よりおちはしもつふさの国なりければ、しかなづけたりとあるひといひき、在五中将〈◯在原業平〉のとほくもきにけるかなとわび給ひしすみだ川は、此かみつ瀬にして、浅草なる大ひざも、このながれよりとりあげ奉りけるとぞ、ふじのねはさらなり、ますかげはなしとよめるつくばの山も、手にとるばかり見ゆ、そこらゆきかふ舟のおほかるは、たヾ柳の葉おこきちらしたるがごとし、夏のころはことに舟あまたつどひて、いと竹の音、川波にひヾきあひて、おそろしきまで聞ゆ、げにひろき都の中にもなぞらふべき所だになく、こよなうにぎはしきわたりになむ、