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丙辰紀行
勢田 勢田は古戦場なり、承久の役には皇輿の敗績して、外に蒙塵ありしことおかなしみ、孝謙の御宇には内相が奔らんとするに橋絶て、高島にて亡し事およろこぶ、是のみならず、日本紀お見れば、天智帝崩御、〈◯中略〉大弟〈◯天武〉吉野より潜に出て、〈◯中略〉皇子〈◯弘文〉の兵と戦勝て、近江の瀬田まで責のぼり給ふ、皇子みづから此橋の辺に陣おとつて合戦ありしが、大弟の兵かつにのりて、皇子敗北して、竹中に入て伯林雉経の跡おふめり、大弟は清見原天皇是なり、壬申の乱とは此時の事おいふなり、〈◯中略〉 勝敗興亡憂更憂、千年人事落棊楸、積骸為橋血為水、都入勢多橋下流、