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覧富士記
すのまた川は興おほかる処のさまなりけり、河のおもていとひろくて、海づらなどのこヽちし侍り、舟ばしはるかにつヾきて、行人征馬ひまもなし、あるは木々のもとたちゆへびて庭のおもむきおぼゆるかたもあり、御舟からめいてかざりうかべたり、又かたはらに鵜飼舟などもみえ侍り、一とせ北山殿に行幸のとき、御池に鵜ぶねおおろされ、かつら人おめして気色ばかりつかふまつらせられ侍し事さへに、夢のやうに思ひ出され侍る、それよりほかにかけても見及侍らぬわざになむ、 島津とりつかふうきすのまだみねばしらぬ手なはに心ひく也 おもひ出るむかしも遠きわたり哉その面かげのうかぶ小舟に