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太平記
二十
義貞首懸獄門事附勾当内侍事 中将〈◯新田義貞、中略、〉秋〈◯延元二年〉の始に、今は道の程も暫く静に成ぬればとて、迎の人お上せられたりければ、内侍は此三年が間、暗き夜のやみに迷へるが、俄に夜の明たる、心地して、頓て先杣山まで下著き給ひぬ、折節中将は足羽と雲所へ向ひ給たりとて、此には人も無りければ、杣山より輿の轅お廻して浅津(あさうづ)の橋お渡り給ふ処に、瓜生弾正左衛門尉百騎ばかりにて行合奉りたるが、馬より飛でおり、輿の前にひれ伏て、是はいづくへとて御渡り候らん、新田殿は昨日の暮に足羽と申所にて討れさせ給て候と申もはてず、涙おはら〳〵とこぼせば、〈◯下略〉