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撰集抄

敵有男山伏笈中入助事 おなじころ〈◯治承〉こしの方へ修行し侍りしに、〈◯中略〉かごの渡りに、今すこしゆきつかで、山のきはに僧一人、おとこ一人侍り、〈◯中略〉此山伏の笈の中に、此人〈◯男一人〉おかくし入て、ふたりうちともなひて道お過侍るに、太刀はき弓持たるおのこども、十余人あつまりて、過つるかたに、しか〴〵の男や侍りつるとたづね侍りしに、此山伏いさヽかもさはがず、さる人はんべりき、此わたりおせんとありつるが、敵の侍とかや、つぐる人侍りとて、又越後へとてこそ、おもむき侍りしかといふ事お聞て、こは打にがしけるぞや、又いざおはんとて、馬にのり、ぶちおうつて、はせ過にけり、扠かれはからくして命おたすかりて、越中国につき侍りぬ、