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源氏物語
四十五橋姫
あやしき舟どもに柴かりつみ、おの〳〵なにとなき世のいとなみどもに行かふさまどもの、はかなき水のうへにうかびたる、たれも思へばおなじことなるよのつねなさなり、われ〈◯薫〉は、うかばず、たまのうてなに、しづけき身と思ふべき世かはと、思つヾけらる、硯めしてあなたにきこえ給、 はし姫の心おくみてたかせさすさほのしづくに袖ぞぬれぬる、ながめ給らんかしとて、殿い人にもたせたまへり、さむげにいらヽぎたるかほしてもて参る、御返かみのかなど、おぼろげならんははづかしげなるお、ときおこそはかヽるおりはとて、 さしかへる宇治の川おさ(○○○○○○)あさ夕の雫や袖おくだしはつらん、身さへうきてといとおかしげにかき給へり、