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古今和歌集
九羈旅
むさしの国としもつふさのくにとの中にある、角田川のほとりにいたりて、都のいと恋しうおぼえければ、しばし川のほとりにおりいて思ひやれば、かぎりなくとおくもきにけるかなと、思わびてながめおるに、わたしもりはや船にのれ、日くれぬといひければ、舟にのりてわたらんとするに、みな人物わびしくて、京に思ふ人なくしもあらず、さるおりにしろき鳥のはしとあしとあかき、川のほとりにあそびけり、京には見えぬ鳥成ければ、みな人みしらず、わたしもりに、これは何鳥ぞととひければ、これなん宮こどりといひけるおきヽてよめる、〈◯歌略〉