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扶桑拾葉集
二十八
春の曙 藤原光広 桑名につきぬ、城のあるじ、やかたうちたるあけのそほ舟、よそひたてられて、やがてめしうつりぬ、伊勢尾張のあはひの海づら、ほの〴〵と霞める月のえんなるに、波は所々しろくたちて、かこのよび声もいかめしく、舟くらべしてうたふ、月もやう〳〵入かたちかくなれば、人おしづめて、 はる〴〵と過にしかたの人やあらぬ浪はむかしの伊勢の海づら、かヽる程に鐘のこえ、浪の枕にひヾきぬれば、 舟中欹枕一声近、知是熱田宮裏鐘、舟はつきぬ、