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海道記
九日、〈◯貞応二年四月〉暁おはやめて豊河の宿にとまりぬ、深夜に立出てみれば、此川はながれひろく水ふかくして、まことにゆたかなる渡也河の石瀬に落る浪の音は、月の光にこえたり、川辺に過る風の響は、夜の色白し、又みぎは、ひなのすみかには、月よりほかにながめなれたるものなし、 しる人もなぎさに浪のよるのみぞなれにし月の影はさしくる