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橘窓自語

西行法師が発心記といふものに、東の方へくだるに、遠江の国天中の渡り雲々とあるは、今遠江浜松の駅と見附駅のあはひにある天竜川の事なり、天竜お天中河(あめなかがは)といふは、竜の梵語なりといふよし、ある人の語れり、されば天竜河とかきて、則あめなか河とよまるヽなり、又海道記に、あまみつそらの中川の水とよめるはあしく、あめなか河といふべし、十六夜日記には、天竜の渡りともあれば、むかしより天竜ともいひしなり、