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東関紀行
菊川おわたりて、いくほどもなく一村の里あり、こはまとぞいふなる、此里のひがしのはてに、すこしうちのぼるやうなる奥より、大井川お見渡したれば、遥々とひろき河原の中に、一すぢならず流わかれたる川瀬ども、とかく入ちがひたる様にて、すながしといふ物おしたるににたり、中々わたりてみんよりも、よそめおもしろくおぼゆれば、かの紅葉みだれてながれけん竜田川ならねども、しばやしやすらはる、 日数ふる旅のあはれは大井河わたらぬ水も深き色かな