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東行別記
相模河 馬入とはいへど馬はわたらず、橋さへぞむかしよりわたしがたき河なりける、けふしも春水いやまさり、ふねもかよひがたかりけれど、いつかぎりならんなれば、河辺にとヾこほるべきにしもあらず、しひて棹さヽせて出にたるに、さかまく波の舟に打いり、袖もひづるばかりにあやうき事おほかり、ふねこぞりて、いたくいとふ気色なりければ、友人おいさめんとて、天にあふひでうそぶく、 いとはじなこれぞうき世のさがみ河わたりかねつヽ袖はぬるとも、とかうして、むかふのきしにつきぬ、舟よりあがり行あしおとヾめて立かへり、ふねにむかひて謝辞おのぶ、 幾世誤伝馬入名、仮橋時見彩虹横、若無一葉浮遊助、率土兆民奈旅行、