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北国紀行
二月の初、〈◯文明十九年〉鳥越のおきな、艤して角田川に泛びぬ、東岸は下総、西岸はむさしのにつヽけり、利根入間の二河おちあへる所に、彼古き渡りあり(○○○○○○○)、東の渚に幽村あり、西渚に孤村あり、水面悠悠として両岸にひとしく、晩霞曲江に流れ、帰帆野草おはしるかとおぼゆ、筑波蒼穹の東にあたり、富士碧落の西に有て、絶頂はたへにきえ、すそ野に夕日お帯、朧月空にかヽり、扁雲行尽て四域にやまなし、 浪の上のむかしおとへばすみだ川霞やしろき鳥の涙に