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東国紀行
宗牧
角田川もみえわたるに〈◯中略〉清閑多田こヽまで数日のおくりも懇切なれば、〈◯中略〉袖ぬれがほなる気色なきにしもあらねば、涙もろなる心よわさおまぎらはさむとて、 角田川舟こぞりはの長刀にあひしらひてぞふりはなれつる、といひつヽ、みやこのかたのみおもひやられて、岸ちかきなるもおぼえず、わたし守におどろかされておりたり、普蔵主とて、常陸国法雲寺より湯本の長老へ使に参られし僧、小田原にても参会のことなれば、このわたりおも、もろともにしつヽかたらひ行ば、馬上より宮内卿にいひかけられし、 冥々武野水雲辺、不意逢君棹小船、無限愁情難話尽、客中送客落花天、と聞もなおもよほされたり、