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大神宮参詣記
康永元年十月十日あまりのころ、大神宮参詣のこヽろざしありて、伊勢のくに安濃津と申ところに著て侍りし程に、故郷にて聊見侍りし人のとヾめ申しかば、旅の心おもたすけむとて、両三日逗留し侍りぬ、この津は江めぐり浦はるかにして、ゆきヽの船人の月に漕こえ、旅泊の暁の枕にきこえて、あらき浪風の音しのびがたく侍りしかば、 かぜ寒き磯やのまくら夢さめてよそなる波にぬるヽ袖哉