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万葉集抄

伊予国風土記には、後岡本天皇御歌曰、美枳多頭爾(みぎたづに)、波氐丁美礼婆(はてヽみれば)雲々、にとみと同韻相通の故に、にぎたづともいひ、みぎたづとも雲とえらばれたり、みとにとは、殊にかよはしていはるヽ字と聞えたりいはゆるなみはやのくにお、なにはとはいふ、におヽみおといへり、蜷(にな)おみなと雲がごとし、それにとりて、この集に、にぎたづのことばおよめる歌に、第一巻には、熟田津爾、船乗世武登、月待者とかけり、熟田津これおにぎたづと雲事、日本紀にみえたり、又或は和(にぎ)多豆ともかき、或は柔(にぎ)田津ともかけるは、皆にぎたづと和すべきことはりなれば、いまの点には、みなにぎたづと和する也、