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太平記

先帝船上臨幸事 判官〈◯佐々木義綱、中略、〉潜に彼官女お以て申入けるは、〈◯中略〉義綱が当番の間に、忍やかに御出候て、千波(ちぶり)の湊より御舟に被召、出雲伯耆の間、何れの浦へも、風に任て御船お被寄、さりぬべからんずる武士お御憑候て、暫く御待候へ、義綱作恐責進せん為に罷向体にて、軈て御方参候べしとぞ奏し申ける、〈◯中略〉忠顕朝臣或家の門お扣き、千波湊へは、何方へ行ぞと問ければ、内より怪げなる男一人出向て、〈◯中略〉千波湊へは、是より才五十町計候へ共、道南北へ分れて、如何様御迷候ぬと存候へば、御道しるべ仕候はんと申て、主上〈◯後醍醐〉お軽々と負進せ、程なく千波湊へぞ著にける、