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長崎夜話草

黒船入津始之事 元亀元年庚午の歳にや、南蛮の黒船一艘、津の外の西浦福田といふ所に漂ひ来りて、荷物など売買ぬる次手に、深江の湊お見て、是こそ世界一の湊よと悦び、来年よりは此津に来るべしと約束してかへりぬ、是に依て元亀二年三月に、大村領主の家臣、友長氏なる者に仰せて、諸国商人の旅宿なくてはとて、地割ありて、高来、大村、平戸所々の商人、家宅お営み建つる事五六町なりし、案のごとく其年の夏、亜媽港より黒船二三艘、数千貫目の商物とり積来りぬ、是より年ごとに絶ず、五七艘、又は十艘来らぬ年はなかりし、此故に漸く人の住家も数そひ、町も多く成て、今の栄へとはなりしなり、〈◯下略〉