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西遊雑記

山川の津は、海深く舟入も能湊にて、町も大概にて、風景も有所也、土人雲、むかしは此浦より大守船に乗らせられ、日向洋お渡り、伊与地に添ふて御参勤ありし事也しに、日向灘に至てあしき海上にて、いつの御代にや危き事有し故に、今は其沙汰なし、然共御館船蔵御覧の通といひき、いかにも能き御旅館あり、又雲、此浦よりぬり舟の飛船に、艫も十挺もたて、真一文字に南海お押切りて、伊豆の下田浦へ渡海すれば、十日のうちには必著せる事にて、日和さへあしからねば五六日に至るといへり、信じがたき事ながら、さもある事にや、経過の舟路は遠からぬやふにも思はるヽ也、