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太平記
十八
瓜生挙旗事 諸国の軍勢共暇おも不乞、己が所領へ抜々に帰りけるお押留めん為に、高越後守〈◯師泰〉四方の口口に、堅く兵士お居て人お不通、若は所用ありて此道お通る人は、師泰が判形(○○)お取てぞ通りける、瓜生判官さらば此関お謀て通らんと思て、越後守の許に行て、御馬の大豆お召進せん為めに、杣山に人夫お百五十人可遣候、関所の御札(○○○○○)お給り候へと雲ければ、師泰が執事山口入道杉板お札に作て、此人夫百五十可通と書て判お居てぞ出しける、瓜生此札お請取て、下なる判形計お残し置て、上なる文字お皆押削て、上下三百人可通と書直し、宇都宮天野相共に、深山寺の関所〈◯越前国〉お無事故通りてけり、