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近代公実厳秘録

不破兵左衛門箱根の関破の事 援に不破兵左衛門と雲浪人者有、江戸青山辺に住居しけるが、子細有之、一族の事に付、播州へ赴かずしては不協用事有、急用と見えたり、しかれば夜お日に継ても可参所なれども、身貧にして万事ふつヽか、其上に女子一人十一才、男子一人九才に成るお持けり、〈◯中略〉不破不敵の者にて、二人の子どもお召連、上方へ赴く、然るに女子は箱根の通り手形六け敷、御留守居の判なくては難通ければ面倒なりとて、彼女の子お、頭お剃て野郎あたまにして、男子の風俗にかへ、つれておもむきけり、あつはれ不敵の事なり、かくて兵左衛門は子ども召連て箱根へ掛り、関所にて申ことわり、男子二人無相違御通しと申ければ、何事なく欺きおほせて通りけり、〈◯中略〉関所破りと雲は、関の外閑道抔お忍び通るおいふなり、関所お欺き偽り通るは関所破りとはいわれず、関守も油断の越度甚し、去れば此者お捕て出す時は、御仕置猶御制法磔の掟なり、然る時は関所の役人も浅深なし咎にて、番頭お始多くの人の落命無疑、〈◯下略〉