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冠辞考
三古
こもりくの〈はつせ〉 古事記に、〈允恭条軽の皇女〉許母理久能(こもりくの)、波都世能夜麻能(はつせのやまの)、また、許母理久能(こもりくの)、波都勢能賀波能(はつせのかはの)、日本紀に、〈雄略天皇〉〈泊瀬の小野にて、山野のありさまお見そなはして、〉挙暮利矩能(こもりくの)、播都制能野麿播(はつせのやまは)、〈継体紀にも〉万葉巻一に、隠国乃(こもりくの)、泊瀬乃川爾(はつせのかはに)、また、隠口乃(こもりくの)、泊瀬(はつせ)之山、巻三に、隠久乃(こもりくの)、始(はつ)瀬乃山爾、巻十三に、隠来矢(くの)、長谷(はつせ)之河、また、己母理久乃(こもりくの)、泊瀬之河之雲々、〈猶多けれど、さま〴〵に書たるお、こヽには挙〉こは右の隠国と書るぞ、正しき字ならむ、山ふところ弘くかこみたる所なれば、籠(こも)りの国の長谷(はつせ)といふべきもの也、国お久(く)といふは、吉野の久孺(くす)お国栖と書がごとし、且日本紀、万葉などに、初瀬の国、初瀬小(お)国ともいひたり、〈難波の国、吉野の国といへる類なり、〉又此処は左右に山ありて、内は長く広くて、入べき口の狭かれば、隠り口のはつ瀬てふ意ともすべし、されど猶前なるぞ古き意なるべき、〈後の人、古きふみどもに、仮字にて、右の如く書たるおもみず、隠口おかぐらくとよみ、その口の字お江に誤りて、こもりえといひ、泊瀬の泊お、古へ波都留とよむ事おもおもはで、とませとよめるなどは、余りてしれ人のわざなり、〉